俺は一遍で惚れちゃった

かつて「田中派七奉行」の1人と言われた渡部恒三氏が語る、田中角栄氏の生きたお金の使い方です。

これは、渡部恒三氏が総選挙で初当選したときのエピソードですが、確かにこんなことをされたら、一遍で惚れてしまうかもしれませんね。

 

自分を公認してくれなかった憎き田中角栄

渡部恒三氏が初めて総選挙に出馬する際、当時の自民党幹事長だった田中角栄氏から公認をもらえず、無所属で出馬することになったそうです。

そして、苦しい選挙戦が終わり、渡部氏は当選はしたものの、本人も後援会も、公認してくれなかった角栄氏をひどく憎んでいたそうなのですよね。

ところが、渡部氏が地元の選挙区から上京して上野駅に着いたところ、非公認だったにも関わらず、党の要職に就いていた金丸信氏と竹下登氏が出迎えに来ていたそうです。

「幹事長が会いたいと言っている」

2人からそう言われた渡部氏は、そのまま2人とともに自民党本部に向かい、角栄氏と面会することになりました。

 

この俺の気持ちが分かるか?

そして、渡部氏が幹事長室に入ると、角栄氏は「おめでとう、おめでとう」と言いながら公認証書を「受け取ってくれ」と言って渡部氏に手渡したそうです。

しかし、このとき渡部氏は、田中憎しという気持ちから、「こんなものは紙切れです」と言って、手渡された公認証書を破り捨ててしまったそうなのですよね。

いくら公認がもらえなかったとはいえ、初当選をした新人議員と党の要職である幹事長との関係性で、そうした行為は許されるものではなかったと思いますが、なんと、角栄氏は顔色一つ変えず、渡部氏に語り掛けてきたそうです。

「お前ね、親心というのを知らないんだな。お前を当選させたいために公認しなかった、この俺の気持ちが分かるか?」

実は、渡部氏の主な得票は、独自候補がいなかった民社党公明党の支持者からのものだったそうで、公認したらその票が入らず落選するかもしれないという事情から、角栄氏は渡部氏をあえて公認しなかったのですね。

 

あって邪魔になるもんじゃない

そして、ここからが田中角栄氏らしいところですが、金庫の中にあった茶色い包みを手に取り、その包を破き捨てて100万円の束を3つ取り出し、「これは公認料だ。あって邪魔になるもんじゃない」と言いながら、渡部氏の上着のポケットにねじ込んだということです。

「俺は一遍で惚れちゃった。あれこそが田中角栄の真骨頂だった」

渡部氏によれば、それは断る隙を与えない絶妙なタイミングでの出来事だったそうで、角栄氏に対して、自分の失礼な態度に腹も立てず、かといって少しも偉ぶることもなく、自然と懐に入ってくる人間味を感じたそうです。

 

公平を重んじ配慮を怠らなかった田中角栄

以上が渡辺氏が語ったエピソードですが、この話しからすると、当時の自民党では、公認候補に300万円の公認料を配っていたようですね。

ただ、それまでの幹事長は、自分が属する派閥の議員には多めに渡す一方で、他派閥の議員の分を減らすのが普通だったということです。

ところが、田中角栄氏は、そういったことは一切せずに、反主流派であっても、まったく同じ額を配っていたそうで、周囲の人から、「そのやり方は本当に公平だった」と評価されていたようです。

また、角栄氏は、誰かが金に困っていると聞くと、向こうから助けを求めてくる前に渡しに行っていたそうで、党派も派閥も関係なく、100万円が必要なら300万円、300万円が必要なら500万円と、常に多めに渡すことを流儀としていたそうです。

そして、これも角栄氏らしいところかもしれませんが、金を渡した相手については一度も口外することがなかったようで、「角さんの金は負担にならない」というのが、政界での評判だったということです。

お金を介したお付き合いをしていた角栄氏ですが、政治家が人気商売であるがゆえに、配慮を怠ることも無かったのでしょう。

 

当時の政治と金の関係

さて、そんな田中角栄氏ですが、官僚出身でもなく学歴もない角栄氏が、政界でのし上がるために莫大なお金を使っていたのは確かでしょうね。

角栄氏が政治家だった当時は、政治家個人が受けた献金には届出の義務がなく、企業からの献金も認められていましたので、帳簿に載らない裏金も含めて、特に与党の議員には多くのお金が集まっていたと思いますし、角栄氏も例外ではなかったと思います。

ただ、その一方、角栄氏が豪奢な生活を極めていたといった話しはなく、目立つものと言えば目白の大邸宅くらいで、私腹を肥やすという言葉とは遠い存在だったのも事実だろうと思います。

ロッキード事件を機に金権政治家の烙印が押されたものの、角栄氏のお金の使い方は、世間が言うほど汚いものではなかったのかもしれませんね。

 

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