愛される馬鹿

自宅に落語のカセットテープと小型のカセットプレーヤーがあって、たまにそれで落語を聴いているのですが、個性豊かな登場人物たちが自由な生き方をしているところが、落語の面白いところですね。

また、愚か者の代名詞のような存在であるにもかかわらず、周囲から愛される存在でもあり、そしてある面では人を凌ぐところもある「与太郎」という一際キャラが立つ人物がいるところも面白いなあと思います。

よく、「馬鹿は強い」と言いますが、与太郎はこの言葉通りのような気がしますし、その意味で、与太郎の生き方には学ぶべきところがあるような気がしますね。

 

与太郎の強み(1) 愛されキャラ

与太郎は、「与太話」という言葉の語源になるほどの愚か者で、間の抜けた言動や失敗を繰り返しているので、周囲の人たちは、事あるごとに苛立ったり呆れたりしているのですが、そんな与太郎にも純真なところや素直なところがあって、日頃は苛立ち呆れている人たちも、何かあると、与太郎の世話を焼いたり面倒を見たりしています。

そして、それもあって与太郎の人生は「うまくいく」わけですが、これは結局、与太郎がただの馬鹿ではなく、「憎めない馬鹿」「愛される馬鹿」だからそうなるのだろうと思いますし、そういうところが、与太郎の強みの一つになっているのですね。

周囲から愛される人ほど周囲の協力を得やすいと思いますが、与太郎もそんな一人のようです。

 

与太郎の強み(2) 馬鹿にされても平気

また、与太郎が周囲から愛されるのは、「変に格好つける」こともなく、「下手なプライド」も無いといったことも影響しているようです。

「何を馬鹿なことを言ってるんだい、お前さんは」

といった感じで、与太郎の周囲にいる人たちは与太郎のことを馬鹿にしますが、これに対して与太郎が一々反応したら、ますます馬鹿にされると思うのですよね。

ところが与太郎は、そんなことがあっても深刻な様子もなく、むしろお気軽に振る舞ったりするので、与太郎を馬鹿にしていた人たちも、何かあるとついつい手助けをしてしまうわけですが、こんな感じで、自然と周囲を巻き込むことができるのも、与太郎の強みの一つだと思います。

 

与太郎の強み(3) 無心になれる

また、与太郎は、ひとつのことに熱中するという部分で人よりも長けているのですが、こうしたところも与太郎の強みの一つだと思います。

与太郎は、周囲の人から何かを教わると、それを疑うこともせず、また抵抗することもなく、失敗しても止めずにずっと熱心に続けるのですが、こうしたことができる人は滅多にいないと思います。

たいていの人は、自分がダメージを受けないように、相手を疑うことで自分を守りますし、何か失敗すれば、小難しい言葉で言い訳をして保身に走りますからね。

もちろん、そういったことが必要なときもありますし、恐らく、多くの場合はそうだろうと思います。

ただ、ここぞという時には、流れに巻き込まれてみることも必要でしょうし、常識にとらわれず、無心になれる人のほうが強いというのも事実だろうと思います。

 

与太郎の強み(4) 優しさ

また、与太郎には孝行息子という一面があり、それがもとでお奉行様から報奨金をもらうという噺もあるのですが、こうした優しさも、与太郎の強みの一つではないかと思います。

他人に対して優しい人は、自分が置かれた環境を素直に受け入れて対応できる人でもあると思いますが、そういうことができる人は、「うまくいく」ことが多いように感じますし、逆に、常に自分が中心で、他人に対する気配りすらできない人は、「うまくいく」ことが少ないような気がしますね。

 

与太郎の強み(5) 怒らない

また、何があっても怒らないというのも、与太郎の強みの一つだと思います。

人間には喜怒哀楽という感情があり、そのうち、もっともコントロールが求められ、かつ、それが難しいのが「怒」ではないかと思いますが、与太郎は、そういうことが自然とできるのですよね。

怒りをむき出しにすれば、相手を傷つけるかもしれませんし、場合によっては、相手からそれ以上の怒りをぶつけられるかもしれませんが、与太郎には、そういう経験がありません。

「喜」「哀」「楽」は、たとえ表に出したとしても問題になることは少ないと思いますが、「怒」が表に出るのは大きなリスクになりますので、周囲との関係が「うまくいく」ためには、怒らないのが一番だと思いますね。

 

やっぱり落語は面白い

さて、与太郎についてはこんな感じですが、こういうキャラクターが受け入れられるくらいの余裕がある社会であってほしいですよね。

また、笑いの中にも人間の本質が見えるようなところがある落語って、やっぱり面白いなあと思いますし、そんな落語を、一人の噺家が身振りと手振りのみで演じるところは、すごいなあと思います。