単身化社会、無縁社会を迎える日本

孤独死孤立死、無縁死。どれもが人生の悲哀を感じさせる言葉ですが、報道などで稀に見かけることがある「行旅死亡人」も、そんな言葉の一つではないかと思いますね。

 

行旅死亡人とは

行旅死亡人とは、病気などで亡くなったものの、氏名や住所などが判明せず、遺体の引き取り手がない人のことで、その取り扱いは、明治32年施行の「行旅病人および行旅死亡人取扱法」で定められています。

また、行旅死亡人については、まず警察が死因や身元を調査し、事件性がなく、遺体を引き取る人(身元引受人)がいなければ、発見された市区町村が遺体を火葬・埋葬し、遺品を管理することになります。

そして、官報に遺体発見の日時や場所、身体的特徴、所持品などが掲載され、引き取り手を待つことになるのですね。

警察庁によれば、年間600~700件ほどの行旅死亡人が官報に公告されているそうです。

ただ、残念なことに、そのほとんどが無縁仏になっているようですね。

行旅死亡人にも、それぞれの人生があったはずで、その人が生きた痕跡は必ずどこかに残されていると思うのですが、それにも関わらず無縁仏になってしまうということは、様々な事情があるということなのかもしれません。

以下、そんな行旅死亡人として報道された2人の人物について触れてみたいと思います。

 

高齢女性の行旅死亡人

ある高齢女性が、兵庫県尼崎市のアパートでひっそりと独りで亡くなった。女性の身元が分かる遺品はなかったが、自宅の金庫には現金約3,400万円が残されていた。

2022/02/20 共同通信

 

この女性は、○○千津子と名乗り、1982年から兵庫県尼崎市内のアパート(女性と同じ○○姓の男性が契約)で暮らしていたそうですが、住民票がなく(理由は不明なものの、1995年に市の職権で削除されていた)、保険証や病院の診察券、親族からの手紙なども見つからなかったそうです。

ただ、○○千津子名義の年金手帳が残されていたということで、そこに記載のあった生年(1945年)から、死亡時の年齢(75歳)が推定されたということです。

 

取材した記者が女性の身元を調査

さて、ここまでが亡くなった女性に関する当初の報道内容ですが、この事件を取材した記者が、わずかな手がかりから追跡取材をし、のちに女性の身元が判明することになります。

・手がかり-1 病院のカルテ
女性が労災事故で入院した際の病院のカルテに、「『23歳まで広島におり、3人姉妹がいた』と話していた」という記述があった。

・手がかり-2 印鑑
女性の遺品の中に、○○姓に混じって△△姓(比較的珍しい姓)の印鑑があった。

記者は、この2つの手がかりから、女性は広島出身で、旧姓が△△だったのではないかと推測し、広島方面に取材の足を広げたのですね。

そして、△△姓の方に取材を続けるうち、亡くなった女性の甥にあたる方が見つかり、女性の遺骨は、無事、故郷の広島に帰ることになりました。

△△という姓が、比較的珍しかったということもあるとは思いますが、丁寧に調査をすれば、行旅死亡人の身元が判明するということかもしれませんね。

なお、女性の戸籍によれば、女性は4姉妹の次女で、生年は1933年だったそうです。年齢を偽っていた事情はわかりませんが、75歳ではなく87歳で亡くなったことになりますね。

 

中年男性の行旅死亡人

1人暮らしをしていたとみられる男性が、身分証明書を持たずに外出先で亡くなった後、身元不明の死者として火葬されたことが17日までに分かった。男性宅は無人となったが、法的には存命して現住している扱い。郵便物も届き続け、近隣住民からは「この不条理な状況を打開してほしい」との声が上がっている。

2024/08/17 共同通信

 

この男性の死亡時の推定年齢は46歳ということですが、京都市内のファストフード店で突然倒れ、病院に運ばれたものの1週間後に亡くなり、行旅死亡人として火葬されたそうです。

ただ、法的には存命扱いのままで、男性の死亡により空き家になった自宅には、郵便物が届き続けるなど、地元住民も方も困惑しているということでした。

行旅死亡人である以上は戸籍に触れることもできず、結果として存命扱いということなのかもしれませんね。

 

警察や行政でも対応が難しい

また、この男性は、ご近所の方とは挨拶をかわすくらいのお付き合いがあったそうで、届き続ける郵便物も、ポストがいっぱいにならないように、ご近所の方が預かっているということでしたが、ご近所の方ができるのはそこまでのようですね。

ただ、では警察や行政が何かできるかと言えば、やはりできることは限られているようで、ご近所の方が相談しても、何の動きもないということでした。

警察:「事件性もなく玄関も施錠されているので何もできない」

水道局:「契約者からでないと受け付けられない」

行政の空き家相談:瓦が落ちるようなことがなければ対応できない

確かにこういう対応にはなると思いますが、これではご近所の方の困惑も深まる一方だと思います。

 

身元は判明したものの無縁仏に

なお、この男性については、亡くなったときに所持していた診察券などから、住所や氏名は判明しており、また、そこから男性の親族にも行きついたそうなのですよね。

ただ、何らかの事情があったのか、親族が関りを持とうとしなかったため、男性の身元確認ができなかったようです。

また、男性は「運転免許証などの顔写真のある身分証明書がなかった」ということで、それも、身元確認ができなかった理由の一つになっているようですね。

逆に言えば、これらの条件が重なると、1人暮らしの人が外出先で亡くなった場合は、行旅死亡人になってしまう可能性が高いということなのかもしれません。

 

法的整備の必要性

以上が、報道された2人の行旅死亡人に関する話しですが、こういう話しを聞くと、顔写真付きの身分証明書の大切さがわかりますね。

また、単身化社会、無縁社会を迎える中、行旅死亡人として扱われる人も増えてくると思われますので、社会的孤立への取り組みとあわせて、身元不明者に対する法的整備も進めたほうが良いと思いました。